東京高等裁判所 昭和25年(け)16号 決定 1950年11月27日
異議申立人 被告人 豐田兵造の弁護人 福田覚太郎
主文
本件異議の申立を棄却する。
理由
本件異議申立の理由の要旨は窃盗被告事件は刑訴第二八九条により必要弁護事件であるから控訴審においても当然この規定を準用して被告人のために弁護人を選任すべきであるに拘らず事茲に出でず被告人が所定の控訴趣意書提出期間内に控訴趣意書を提出しなかつたと云うだけで被告人の控訴を棄却する旨の決定をしたのは違法であると云うのである。
しかし、控訴趣意書は弁護人でなければ提出することができないと云うものではなし、被告人自身においてもこれを提出することができるのである。従つて控訴を申立てた被告人が控訴裁判所から弁護人選任に関する通知書の送達を受けたのに弁護人を選任することもなく又みづからも所定の期間内に控訴趣意書を提出することもなくして右期間を経過したときは当然被告人においてその懈怠の責に任じなければならない。所論の刑訴第二八九条の規定は同法第四〇四条によつて控訴審においても準用されるのであるが右の規定は死刑又は無期若しくは長期三年を超ゆる刑にあたる事件の審理をする場合には弁護人がなければ開廷することができない旨をいうているだけであつて、弁護人の出頭することを以つて開廷の要件とするに止まる。従つてこの規定を控訴審に準用するに当つても開廷をするに当り弁護人を出頭させさえすればいいのであつて、更に所論のごとく弁護人をして控訴趣意書を提出させるまでの手続の履踐を要求するものと解することはできない。それ故に原決定が敍上と同一の見解の下に被告人の控訴を棄却したとて毫も違法とする筋合ではない。従つて原決定を違法とする本件異議の申立はおのずからこれを排斥しなければならない。
よつて刑訴第四二八条第三項第四二六条第一項に則つて主文のように決定する。
(裁判長判事 佐伯顯二 判事 尾後貫莊太郎 判事 仁科恒彦)